近年、SNSやメディアでたびたび話題に上がる「多産DV」という言葉をご存知だろうか?
これは、女性に望まない妊娠・出産を繰り返させることで心身に深刻な負担を与え、女性を支配する形で続けられる性暴力を指す言葉だ。
かおりさん(仮名、40歳)もその被害者の一人だった。
多産DVとは?
多産DVとは、文字通り「多くの子どもを産ませ続けることを強要されるDV」のことだ。具体的には、性行為を強要し、避妊をしない、あるいは避妊をさせない、さらに中絶を認めないという形で女性の身体に対する支配が続く。このような支配的な関係は、時として女性の身も心も拘束し、逃げられない状況を作り出す。
産婦人科医であり、30年以上にわたって多産DVの被害女性を支援してきた種部恭子氏によれば、多産DVにおける特徴的な暴力行為には「避妊しないこと」「性行為を強要すること」「中絶を許さないこと」が含まれるという。
さらに、こうした行為が続くことで、女性は最終的に出産を繰り返すことになり、結果的に身体的・精神的に深刻な負担を負うこととなる。
かおりさんの体験
かおりさんは18年前に結婚し、最初の妊娠からすぐに2人目、3人目と続き、その後も毎年のように妊娠・出産を繰り返した。
彼女はもともと子どもが好きで、出産を望んでいたが、3人目の子どもを出産後に身体的な限界を感じ、「もう妊娠・出産は嫌だ」と夫に伝えた。だが、その後も夫からは暴力を受け、避妊を拒否されるなど、望まない妊娠を強いられた。
最終的には6人目の子どもを出産したが、その間にも夫からは「跡継ぎが必要だから」「女の子を産んでくれ」といった言葉で圧力をかけられ、妊娠を強要され続けた。
多産DVがもたらす影響
多産DVは、単なる身体的な暴力にとどまらず、心身に深刻な影響を及ぼす。専門家によると、こうした状況にある女性たちは、「寝られない」「心身が疲れ果てている」「毎回中絶を繰り返す」など、精神的・肉体的な不調に悩まされることが多い。
また、「避妊に協力してほしい」と頼むことすらできず、妊娠が続いてしまう場合も多い。最終的に、「子育てをしなければならない」「家庭を守らなければならない」という義務感から逃れることができなくなり、自己の意志が無視される状況に陥る。
専門家の見解
産婦人科医の種部氏は、「避妊をしないこと自体が立派な暴力であり、性行為を強要することも性暴力の一環だ」と強調する。夫がこのような支配的な行為を行う背景には、支配欲が強いことがある。
加害者は、女性に子どもを産ませ、家の中に縛り付けることで自分の支配力を強化しようとする。多産DVを受けた女性たちは、性的暴力や精神的な虐待にさらされ続け、最終的に自己の意志を持つことができなくなってしまう。
社会の認識不足と対策
多産DVは、目に見えにくい性暴力であり、その実態が広く認知されていないのが現状だ。ネット上には「女性側で避妊できるのでは?」という誤解や、「なぜ自衛できなかったのか?」という批判も見受けられるが、このような視点では本質を理解することはできない。
専門家によると、被害者が避妊を拒否され、さらには妊娠を強要されている場合、女性は支配され続ける立場にあり、意志を示すこと自体が困難だという。
多産DVを減らすためには、社会全体でこの問題について理解を深める必要がある。医療機関や支援団体が、被害を受けている女性に適切な支援を提供すること、また法律的な保護を強化することが重要だ。
まとめ
多産DVは、女性にとって心身に深刻な影響を与える性暴力である。女性が避妊を拒否され、望まない妊娠を強要され、支配される状況が続くことは、肉体的な負担だけでなく、精神的な虐待も伴う。
多産DVを防止し、被害をなくすためには、社会全体の認識を高め、支援体制を強化することが求められている。